現場を離れて久しい新聞記者のブログ。 読んだ本の紹介や旅行記(北朝鮮竹島イランなど)が中心です。 

『イスラーム国の衝撃』(池内恵)

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

中東・イスラームに関する気鋭の学者が、(1)イスラーム政治思想史と(2)国際政治史という2本の柱から「イスラム国」*1という現象を論じた本です。
グローバル化やIT化も相まってジハード論の思想や運動が拡大し、アルカイダ(など)を中心とする諸団体の緩やかな紐帯*2や、ごく個人的かつ一方的なコミットメントの表明*3を特徴とする「グローバル・ジハード運動」が成立したこと(1)。アラブの春で中東各国の政権が動揺して地方統治の弛緩が進み、また相次ぐ中東政策の失敗(と言っていいと思いますけど)で米国のプレゼンスが低下していること(2)。こうした二つの条件が重なることで、イラクとシリアのそれぞれ周縁部に、国境をまたぐ形で「イスラム国」なる集団が支配する領域が生まれた。その点が、この現象の「衝撃」であると著者は論じます。
こうした筋書きに沿って、2014年末までの彼らの来し方とその要因を平易に解説しており、オススメできる一冊です。第1刷が出たのがまさに「イスラム国」がビデオで日本人拘束の事実を突き付けた1月20日とあって、その事件の顛末や分析については触れられていませんが、こういうショッキングな事件こそ現象面以上にその背景を知ることが有益だと思いますし、昨今言われるようになったように、前者にのみ注目すること自体が彼らの思うつぼでもあるでしょう*4。さらには、その都度の展開については著者が運営するブログ中東・イスラーム学の風姿花伝でも解説されていますので、そちらでフォローできるかと思います。関心のある人は是非、と言える本ではないでしょうか。

*1:彼らは「イスラーム」を代表しているわけでもなく、国際社会に認められた「国家」でもない、といった理由からISなどと呼ぶ動きが日本の報道機関でも広がってきていま須賀、それぞれ当たり前のことでもありますし、ここでは彼らがそう名乗っている以上、この呼称でいこうかと思います。著者もそうした見解のようですね

*2:アラビア半島のアルカイダなど「アルカイダ星雲」状態

*3:最近言われるようになった「ローンウルフ(一匹狼)」などの「勝手にアルカイダ」状態

*4:著者もそのように指摘しています