かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『権力移行―何が政治を安定させるのか』(牧原出)

権力移行 何が政治を安定させるのか (NHKブックス)

権力移行 何が政治を安定させるのか (NHKブックス)

55年体制下の政権継承のあり方や、主に80年代以降の「改革の時代」を振り返りながら、2009・12年に起こった政権交代を「進化」させるには何が必要かを探った本です。全体的に示唆深い指摘の多い本で、80年代までの行革と90年代の統治機構改革、小泉内閣以降の構造改革のそれぞれで、改革の対象や手法、活用された官僚ネットワーク*1が異なる、という話など、これまで自分ではちゃんと整理できていなかったことが理論立てて書かれていて、勉強になりました。
ただ、「自民党がいい民主党がいいではなく、政権交代が起きたときによりスムーズに政治が進んでいくようにするにはどうすればいいのか」ということを考える*2に際して、「改革の時代」をここまで詳述して、「政権交代の進化」の本論をわずかな記述にとどめてしまうということでよかったのかはちょっとよくわかりません。確かにその時代の選挙制度の産物が政権交代を生んだとされていますし、政権交代統治機構改革が結びつきやすい話であるというのはわかるんですけど、たぶんに私の読み込み不足という要因もありながら、一つの論証としてわかりやすくつながっているか、と問われればややそうでもないような気がしました。そこを割り切って読めば学ぶことの多い本なんですけどね。
それはともかく、著者が指摘するように、政権交代という現象がぐっと身近になった今、政権に復帰した自民党がかつての55年体制下のような「復活」を遂げた=これからまた数十年間政権交代はない、と考える人は少ないでしょう。であれば、いつかは来るだろう与野党交代・再交代を見据え、それがなるべくスムーズに行われるよう、よりフェアなルールを政治の仕組みの中に埋め込んでいくべきである。広く言えばそういう政治文化を涵養することが、日本の民主主義に資するということを理解させてくれる一冊です。

*1:雑に言えば、著者は大蔵省タイプと内務省タイプ、通産省タイプに分類しています

*2:まさにそれが主題であるはずで須賀