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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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国際政治学の「急所」/『未承認国家と覇権なき世界』(廣瀬陽子)

未承認国家と覇権なき世界 (NHKブックス)

未承認国家と覇権なき世界 (NHKブックス)

一定の領土や住民を擁し、独立を宣言していながらも国際的に認められていない「未承認国家」が生まれる経過やそのありよう、問題点などを国際政治の観点から紹介する本です。というとかなりニッチな学問領域のように聞こえるかもしれませんが、「古参組」と呼べる台湾や北キプロスなどに加え、記憶にも新しい2008年のグルジア紛争で脚光を浴びた南オセチアアブハジア…というラインアップ、そしてもっと記憶に新しいはずのロシアによるクリミア編入の際、「未承認国家がロシアへの編入を希望した」というロジックが用いられたことを鑑みれば、実はこれは極めて今日的な問題であるということが見えてくるはずです。特に著者が専門とする旧ソ連圏の状況を中心に議論が展開されます。
なかなか未承認国家という切り口から深く国際政治を考えたことがなかったので、非常に興味深い示唆を得ることができました。未承認国家は内外の(消極的な意味を含む)支持を得るため、自由化・民主化を進めるインセンティブがある*1とか、軍事基地の設置などのために広義の「帝国」と呼ばれる国々が未承認国家を生み、維持している側面がある*2という指摘などがそれです。それこそ本でも再三指摘されているように、「領土保全」と「民族自決」という容易には相容れない大原則*3の狭間にある問題だけに、「ナウい*4かどうか以前にまさしく国際政治学の急所を突くような領域であると言うことができるかもしれません。
ただ、一つだけ言っておけば、このテーマが「ナウい」ものになったそのパンドラの箱を開けたのは、日本を含む「西側」と見なされてきた国の多くが未承認国家であるところのコソヴォを国家承認したことにあるとされています。それは割と広いコンセンサスを得ている議論だと認識していま須賀、それこそ納豆による空爆から国家承認まで、なぜこのケースにおいて領土保全原則の例外が行われたのか、もう少し腑に落ちる説明があればとは思いました。かつて読んだ『戦争広告代理店』についても指摘がありましたが、それだけが要因ということはないでしょう。

*1:台湾はその好例でしょう

*2:これは著者も認める通り若干論証として弱い気がしま須賀

*3:現実問題としては、後者が強く打ち出されたのは歴史上の限られた期間で、最近で言えば共産圏の崩壊時も前者が卓越していました。なぜなら、世界中の民族が独立や独自の権利を求めて武力に訴え始めたら、世界中で血で血を洗う紛争が起きて収拾がつかなくなるからです

*4:その言葉が「ナウくない」