かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『新聞と戦争』(朝日新聞「新聞と戦争」取材班)

新聞と戦争

新聞と戦争

2007年4月から1年間、朝日新聞に連載された同名企画を収録した本です。少なくとも新聞報道に携わっている人は(私のように、リアルタイムで読んでいないなら)読んだ方がいいんじゃないかと言えそうな良著だと思います。
新聞が戦争に加担していくターニングポイントとしてよく象徴的に語られるのが、まさしく朝日が満州事変を境に「転向」したことで、連載でも当然、その経過について詳論されています。右翼や軍の圧力、不買運動、市場拡大への期待、編集上の忖度や社論のはらむ矛盾―。そうした分析的な章も読み応えがありましたが、それ以上に、「京城*1支局」や航空機を駆使した報道合戦、販売の前線の話など、当時の新聞社を取り巻く空気感が非常に伝わってくる*2という意味で、読んでいて面白く、そして読みやすかったです。また、あとがきにもあるように、論争的あるいは主観的と見なされかねないような書きっぷりはなるべく*3避けているようで、その点良くも悪くもあっさりしているな*4、と思う個所もあった半面、受け入れられる間口の広い作品に仕上がっていると思います。
一番印象的だったのは、ナチスに執筆を禁じられたという作家エーリヒ・ケストナーの言葉です。「転がる雪玉を砕かなければなりません。雪崩になってしまえばもはや誰にも止められはしないのです」「独裁政治が差し迫ってくるとき、戦いが可能なのはそれが権力を握る前だけです」―。
いえ、自分の立場を鑑みれば、その警句すら悠長に過ぎるかもしれません。なぜなら、この連載が浮かび上がらせたのは、少なくとも当時、「転がる雪玉」を「雪崩」にした張本人こそが新聞だった、ということだからです。

*1:現・ソウル

*2:私自身が新聞社に勤めているという要因はもちろんあると思いま須賀

*3:「完全に」なんてことはそもそも無理です

*4:あと蛇足かもしれませんが、国際連盟脱退の経過は触れるだけにしてもちょっとあっさりし過ぎていたのではないかと指摘しておきます