- 作者: 堤未果
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/01/22
- メディア: 新書
- 購入: 39人 クリック: 606回
- この商品を含むブログ (374件) を見る
- 作者: 堤未果
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/01/21
- メディア: 新書
- 購入: 18人 クリック: 367回
- この商品を含むブログ (152件) を見る
- 作者: 堤未果
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/06/28
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (46件) を見る
こうした「市場原理にゆだねるべきとは考えられない分野」までも資本の論理が食い破っていった結果、人々が次々に債務の奴隷になっていくさまを突き付けられるにつけ、(確か)「人間は目的そのものとして扱われるべきで、何かの手段として用いてはならない」というカントの言葉を思い出します*2。その一方で、ちょっと引いて見てみると、著者がこの本で問題提起した現状や「市場原理にゆだねるべきとは考えられない分野」という観念すら、ウェーバーあたりが言うところの合理化や脱魔術化の過程でしかありませんでした、なんて未来も想像することはできるわけで、もしかしたら、著者をはじめとして「いくらなんでもこれはちょっと行き過ぎではないのか」と考える人たちは後世において、例えば熱湯で手がただれるかどうかで裁判を行う盟神探湯を信じる人のように、非合理的で魔術的であると見做されるかもしれません*3。
その意味では折も折、今の日本もその岐路にあると言うことができるでしょう。「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」*4と言い切る首相が企業偏重の「経済対策」を連発し、(ここではその是非はともかく)TPP参加のための交渉を進めています。これには多くの規制緩和が伴うでしょう。そして折しも、今審議されている特定秘密保護法案の人権侵害ぶりも、911後の熱狂の下のアメリカを思わせます。
もちろん、日本では企業活動ができないと思わせるほどの重い法人税をかけたり、がんじがらめの規制を維持強化すべきだとは思いませんし、とにかく自由貿易協定の枠組みには参加すべきではない!と叫ぶつもりもありません。しかし、この本に描かれた社会が20XX年の日本の姿となる可能性もあって、その岐路に今のわたしたちが立っている、とは言ってもよいのではないかと思いますし、それは恐らく「あれかこれか」の二者択一ではなくやりようの問題―「どちらの道を歩くか」よりも「どう歩くか」―である気がします。冷戦終結で片方の陣営が崩れ去り、別陣営の理論的唱導者たる「巨人」の内部もここまで蝕まれてしまっていることも、それを示唆しているように思います。
2・3冊目の最後の部分で著者は、政治家や多国籍企業の上層部などの豊かな「1%」に対して善悪の白黒をつけるのではなく、彼らを(しばしば道義というよりは利で以て)動かしていく潮流に触れています。現下の日本の政治情勢に照らしても、それこそ日本に住む人々が教訓にし得ることだと感じています。