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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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トルコで乗ったばかりなだけに…/エジプト気球爆発事故

クローズアップ2013:エジプト気球爆発 人気の陰、潜む危険
エジプト観光の拠点として世界中から観光客が集まるルクソールで発生した熱気球墜落事故。日本人を含む多数の乗客が亡くなった。現地はかつてテロの舞台にもなったが、気球で上空から遺跡を巡るツアーが人気となり、一時減少した観光客が少しずつ戻っていた。原因は何なのか。安全対策は十分だったのか。
◇安全基準、徹底されず
熱気球は、暖められた空気が上昇する現象を利用して飛ぶ。暖房で暖められた室内の空気が、天井へ上がるのと同じ原理だ。
化学繊維で作る気球の風船部分「バルーン」(球皮(きゅうひ))内の空気をガスバーナーで暖めると、空気は膨張して外へあふれ出し、その分だけ全体の重さが軽くなるため浮き上がる。高く上がるためには燃焼力を上げ、バルーンの中の空気を膨張させて軽くする。降りたい時は、バーナーの火を小さくし、バルーンの天頂部にある排気弁を操作して内部の熱せられた空気を排出する。
墜落事故は、ガス漏れによる爆発や高圧線などへの接触が原因になった例がある。
今回の事故原因は何か。発生当時、現場の近くにいたというルクソール県のサード知事は毎日新聞の取材に、墜落前にバーナーの燃料用ガスが爆発したとみられると証言した。墜落した気球は大型のバスケットをつるしていたため、複数のガスボンベを搭載していたとみられる。
AP通信は目撃者の話として、気球は出火から2分後に墜落したと伝えた。
観光客を乗せた気球の遊覧飛行中の事故は世界中で時折発生している。だが、国内の愛好家約1500人が加盟する日本気球連盟によると、日本では個人飛行が主で遭難例はあるが、死亡事故を聞いたことはないという。
気球は欧米では航空機として扱われ、国によって国家資格が必要だが、国土交通省によると、日本では飛行機やヘリコプターのような「航空機」扱いではなく、操縦者になるための国家資格もない。安全な運航を自主的に確保するため、同連盟が操縦者としての技能証明を発行している。
自作の気球も飛ばすことができるが、「航空路内の場合は地表から150メートル」など一定の高さ以上に上る場合は、日時や場所の国への届け出が必要だ。
定期的な点検も義務化されており、バルーンやガスのバルブ、ホースに関し安全基準を満たしているかを国の認可機関がチェックする。
愛好家が飛行前に最も気をつけるのは、気象と燃料系統に異常がないか。国際航空連盟(FAI)のルールでは、風速が8メートル毎秒以上の時は離陸してはいけないことになっているが、日本気球連盟によると国内では、風速5メートル以上の時はよほどのことがないと飛ばないという。同連盟企画広報局長の太田耕治さん(62)は「効率良く稼ぐために強風でも飛行するなど、海外ではリスクの高い飛行がありえる」と指摘する。
今回の原因究明はエジプト当局が今後進める。佐賀大海洋エネルギー研究センターの門出(もんで)政則教授(熱工学)は「日本ではガスボンベの検査や使用方法が厳密に決められているが、海外では基準が甘く、配管接続などに問題があってガスが漏れたのだろうか」と推測。その上で「ボンベの爆発以外には、気球のバルーン部分の防火対策が不十分だったり風向きが悪かったりしてバーナーの火がバルーンに燃え移った可能性がある」と指摘した。【大沢瑞季、林田七恵、桐野耕一、久野華代】
◇経済の柱「観光」に痛手
ピラミッドやスフィンクスなど多数の世界遺産を誇るエジプトは、憲法で「観光産業は国家経済に不可欠な存在」とうたう。だが、不安定な政情で旅行客数は増減を繰り返してきた。97年、ルクソールで観光客を狙ったテロ事件が起き、同地だけで年間280万人に上る旅行者が半減。特に日本人旅行者は9割減となった。
近年では、11年2月のムバラク政権崩壊に伴う治安悪化で観光客が激減。遺跡ツアーが相次ぎ中止に追い込まれた。国連世界観光機関(UNWTO)は、「アラブの春」によりエジプトの観光収入が3分の1以下に落ち込んだと推計している。ルクソールでは最近、ホテルの客室が4分の1しか埋まらず、1泊3食付きで15ドルと投げ売り同然で客引きするところもあるという。
エジプトを訪れる日本人旅客数も大きく振れる。日本旅行業協会などによると08年は約10万8000人でアフリカ大陸では1位。09年は10万人を下回ったが10年には約12万6000人に回復。だが、11年は一転、約2万8000人に落ち込んだ。
それでも同地やカイロ郊外のギザなど観光地の多くは治安を回復。客足が戻りつつあっただけに、同国の観光業界は今回の事故による影響を懸念する。
ルクソールの気球遊覧は10年ほど前に始まったとされ、政情不安で客足が伸び悩む中、同地ツアーの目玉に成長してきた。その陰で事故が頻発していた。
英BBC放送などによると、07年に気球が墜落し米国人などが負傷。08年4月にも墜落で英国人4人が重傷を負った。09年4月には気球がナイル川沿いの通信塔にぶつかり16人が負傷した。この時は安全上の問題が浮上。パイロット再訓練など政府の安全指導を背景に、運航業者は約10社から4〜5社に淘汰(とうた)された。
生き残った一つが今回事故を起こしたスカイクルーズ社。100人前後のスタッフを擁し、100時間や250時間おきに気球を点検していたとされる。だが、政府による安全指導はその後の政情不安で徹底されなくなった可能性がある。
同地の気球遊覧を扱う日本の旅行各社は、現地の運航業者の安全対策に細心の注意を払ってきた。「クラブツーリズム」(東京都新宿区)は「現地業者との契約の際、社員を何度も派遣し、実際に乗ってみて確かめた」(広報責任者)という。ただ、各社とも高所が苦手な旅行者に配慮し、ツアーの基本プランには組み込んでいないようだ。「自己責任で参加する」などと参加者から誓約書を取る旅行業者も多い。気球の特別な保険はないという。【石原聖、池田知広】
◇最近の主な気球事故
1989年 8月 オーストラリア中部で日の出見物客を乗せた熱気球同士が空中で衝突、1機が墜落し乗客乗員13人が全員死亡
94年 1月 ドイツで4人乗り熱気球から出火し、2人が飛び降りて死亡、1人は逃げ遅れて死亡
95年 7月 米カリフォルニアで日本人客が乗った観光ツアーの熱気球が着陸失敗、乗客3人が投げ出され1人死亡、日本人も2人が軽傷
95年10月 ニュージーランド南島で、日本人観光客ら9人を乗せた観光用の熱気球が海に墜落、日本人2人を含む3人が死亡
2007年 8月 カナダ西部ブリティッシュコロンビア州で、観光用熱気球が離陸準備中に突然炎上し、墜落。飛び降りるなどして2人が死亡、11人が重軽傷
09年 5月 トルコ・カッパドキアで観光用熱気球が他の気球と接触して墜落、1人が死亡、10人が重軽傷
12年 1月 ニュージーランド北島で、熱気球が電線に引っ掛かって炎上、パイロット1人と乗客10人の全員が死亡
(2月27日、毎日新聞より抜粋)

これは怖いですね。私自身、昨夏にトルコのカッパドキアで気球に乗った時には、自分が何かの弾みでそこから出て落下することは想像していましたが、気球そのものが爆発するとは思いも寄りませんでした*1
その後の報道を見るに、整備ないし危機対応における人的ミスを指摘するものが増えているようです。第一報を聞いた瞬間、カッパドキアパイロットが、「熱気球の原理上、温暖な気候の場所はあまり好ましくない」と話していたのを思い出しましたが、調べ得る限りにおいて、2月のルクソールと8月のカッパドキアの気候はある程度以上似通っており、私として、今回の事故に関してそれが要因にあるのではないかとは言いにくいところです*2
まずは亡くなった方々へのお悔やみを申し上げ、熱気球を吉田運行する立場で、如何にして技術的に再発防止を図るかについて議論が深まることを期待しつつ、旅行者の立場で、如何にして旅先の事故に巻き込まれるのを防ぐかを考えていかねばならないと感じています。

*1:というより、そんなこと想像したくもなかったので、そもそも起こりうる選択肢から排除されていたのかもしれませんが

*2:自分の乗った気球も同確率で爆発した、とは考えたくないものです