かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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橋下徹市長の「水戸黄門」的手法/「桜宮高校体罰問題」

橋下市長“すばらしい決定”
大阪市立桜宮高校の体育科などの入学試験を普通科に変更して実施することが決まったことについて、大阪市の橋下市長は21日夜、記者団に対し「教育委員会が教育的な視点からすばらしい決定をしてくれた」と述べ、評価しました。
この中で橋下市長は、大阪市教育委員会が来月行われる市立桜宮高校の体育科などの入学試験を普通科に変更して実施することを決めたことについて「教育的な視点からすばらしい決定をしてくれた。これで、再生に向けて本気で改革が始まると思う。そのスタートが切れた」と述べ、評価しました。
また、橋下市長は、受験生に対して「今回の決定は単なる看板の掛け替えではない。受験生には、これまでの桜宮高校の体育科として受験してもらっては困る。新しい桜宮高校に期待して、受験してもらうことが必要だ」と呼びかけました。
さらに、橋下市長は、新たに入学する生徒の教育内容について「今のカリキュラムの中身を総点検して、新しい理論とか、スポーツマンシップを盛り込んだものを作ってもらいたい。具体的な教育内容は、教育委員会が作るのを待ちたい」と述べました。
一方、記者団が「市長が求めていた高校の教師の総入れ替えはどう考えているのか」と質問したのに対し、橋下市長は「教育委員会がしっかり考えてくれると思う」と述べるにとどまりました。
教育委員長“一夜漬けのような内容”
大阪市教育委員会の長谷川委員長は記者会見で、今回の決定について、「橋下市長の意向に左右されておらず、1人1人の信念に基づいて判断した結果だ」としたうえで、みずからは5人の教育委員による変更案の採決にただ1人反対したことについて、「私個人としては、今回の決定は変則的で一夜漬けのような内容だ」と述べました。
そのうえで、長谷川委員長は、記者団が「教育委員長を辞職することはないのか」と質問したのに対し、「今のところ全然考えていない。改革を進めることで応えていきたい」と述べました。
決定を受けて、大阪市教育委員会の長谷川委員長は、21日夜、受験生などに向けたメッセージを出しました。
この中で、長谷川委員長は受験生に対し、「普通科ではあるが、真のスポーツマインドをもった人材を育成する、スポーツに特色あるカリキュラムを組む」としたうえで、「急な募集要項の変更だが、受験生への影響が小さくなるよう考えた。どうか希望を持って受験してほしい」と呼びかけています。
また、在校生に対しては、「仲間の死を受け止め、学びを深めることを通じて新しい伝統を築いていってもらいたい」としています。
(1月21日、NHK)

当該高校と部活のあり方に問題がなかった、とはだれしもが考えていないと思います。ただ、上に掲げたものを含む橋下市長の一連の発言を聞いていると、どうも教育現場における体罰の問題を、スポーツに力を注ぐ特定の高校で生じた不祥事として矮小化しているようにも聞こえてきてしまいます。
これだけ思い切ったことを決め、志向すれば、この高校が全く変わらないということは考えにくいと思います。ただ、こうして問題が生じた場所に赴き*1、鮮やかな手法でドラスティックに状況を変えて一件落着、というある種のスペクタクルだけでは、体罰という教育問題の本丸に至ることはできないと思います。それは政治家というより、旅先で出くわした悪代官を懲らしめて去っていく水戸黄門の手法そのものではないでしょうか。物語で「先の副将軍」と呼ばれている「旅の隠居」に、「代官が悪事を働かないような人事管理や制度設計をしろ」と要求するのはやや筋違いかもしれませんが、日本有数の大都市の現役の市長であり、衆議院第三党の現役の共同代表である人物には、それが求められてしかるべきです。
まずはせめて、橋下市長が水戸黄門のように、桜宮高校の「仕置き」だけを済ませてこの問題から去っていくようなことがないように願います。その上で、体罰の問題に真剣に向き合う際に対峙すべきは、まさにこうした発想なのではないかと指摘せざるを得ないのです。

橋下知事「手を出さないとしょうがない」 体罰容認発言
大阪府橋下徹知事は26日、堺市で開かれた「大阪の教育を考える府民討論会」(府、府教委主催)に出席、学力向上のための緊急対策に盛り込んだ反復学習の実施に理解を求めた。一方、「口で言って聞かないと手を出さないとしょうがない」と体罰を容認する発言をした。
知事は「私は学力を必ず上げます」と断言、「子どもが社会に出て壁にぶつかったとき、乗り越えられる能力が絶対必要だ」と訴えた。一方で「子どもが走り回って授業にならない。ちょっとしかって頭でもコツンとしようものなら、やれ体罰だと叫んでくる。これで赤の他人の先生が教育をできるか」と話し、どこまでを教育と認めるか合意形成が必要だとした。
また、質問に立った日教組の組合員という小学校職員が、「日教組の強いところは学力が低い」などと発言した中山前国土交通相を知事が擁護したことを批判。その後、知事を非難するヤジが続くと、知事は「中山発言正しいじゃないですか」「これが大阪の教育現場。こういう教師が現場で暴れ放題する」「9割の先生は一生懸命やってる。1割のどうしようもない先生を排除してください」と激しい口調で話した。
討論会後、報道陣から体罰を容認するのかと聞かれた知事は「体罰という言葉にとらわれる必要はない」と答えた。これに対し、討論会に同席した生野照子・府教育委員長は「体罰に関する発言は間違っている」と話した。
(2008年10月26日、朝日新聞)

*1:この日に市長は桜宮高校を訪れ、自分の見解を述べました