かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『スタンフォードの自分を変える教室』(ケリー・マクゴニガル)

スタンフォードの自分を変える教室

スタンフォードの自分を変える教室

私がいわゆる「自己啓発本」が好きでないのは、まずもってそこに非科学的な精神論の臭いを嗅ぎ取ってしまうからです。ページをめくるたびに「この人は何を根拠にこんなことを宣っているんだ?」と腹が立ってくることが必定なので、そもそも意図的に手を取らないようにすらしていました。
しかし、この本はその点に関しては明確な一線を画していて、「すべき何かをする力」「すべきでない何かをしない力」「自分のあるべき姿を望む力」とされる「意志力」に関し、心理学や脳科学などからの研究成果をふんだんに用いた論理構成となっています。その上で自分、というより人間というものは、合理的選択論の登場人物としてふさわしいほど常に理性的・自制的な存在ではないということを受け入れながらも、そこに様々な手法で*1折り合いをつけていくことを薦めています。確かにそれは穏当な主張と言えばそうなんで生姜、やっぱり「より効率的に人生を送りましょう」と言われているような気がして、私としてはなんだか素直には呑み込めませんでした。でもその反感を突き詰めていくと、「読売巨人軍は永遠に不滅です自分には永遠の時間が与えられている(≒自分は死なない)」あるいは「自分は全能である」という命題が見えてきてしまうわけで、もちろんそれらの命題が偽であることは明らかである以上、こうした考え方や知見と一定の折り合いをつけていく必要はあると言わざるを得ないのでしょう。
知見、というところで思い出しましたが、やはりこの本を読んで最も印象的だったのは、アメリカにおいて「意志力」に関する知見が如何に科学的実験・検証の対象として扱われているか、ということです。意志の力なんて聞くと、条件反射的に精神論的いかがわしさを訝ってしまう感覚とはかなり異質な空間ということなのでしょう。

*1:具体的な手法がどのくらいしっかり根拠づけられたものであるかにはばらつきがあるように思いま須賀