かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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金賢姫萌え 〜『いま、女として―金賢姫全告白』(金賢姫)

いま、女として―金賢姫全告白〈上〉 (文春文庫)

いま、女として―金賢姫全告白〈上〉 (文春文庫)

いま、女として―金賢姫全告白〈下〉 (文春文庫)

いま、女として―金賢姫全告白〈下〉 (文春文庫)

大韓航空機爆破事件の実行犯であり、元北朝鮮工作員金賢姫が、爆破事件を起こしてから自らの正体を明かすまで、そして自らの生い立ちまでをも語った本です。バーレーンやソウルでの捜査員との駆け引きに加えて、正体を明かし、死刑判決を受け、特赦を受けても残る彼女自身の罪の意識や家族への思いが読む側にひしひしと伝わってきて、単純に読み物としても魅力的でした。
しかしこれはフィクションではありません。後半の彼女の生い立ちを語る部分は、当時の北朝鮮の社会や工作員の実態、さらには拉致被害者田口八重子さんとされる李恩恵について知る上で、高い資料価値を持つということができるでしょう。特に北朝鮮の教育における動員と、それに伴う競争の様子は、否応なく北朝鮮全体主義的な政治体制を浮き彫りにしています。
個人的感想で言えば、彼女がここまで捜査員たちとハードなやり取りを続け、そして一転、ここまで韓国の社会に適応できたのは、やはり彼女が北朝鮮のエリートとして、内容は違えど高い教育を受けてきたエイブルな女性だったからのように思えてなりません。この前youtubeを見ていたら、森本敏という人が「過酷な工作員訓練を受けてきた金賢姫が、我々のような普通の感情を持っている人間に戻れたのは、彼女に人間としての素質があるから」とか言っていたのを見たので須賀、私が言っているのはそういう意味ではありません。何か北朝鮮工作員教育を受けると血も涙もない人でなしになるような言い方で、その見方がいかに偏見に満ちた曲解であるかは、この本こそが最も雄弁に語っていると思います。
もっと言えば、血も涙もない連中だから命じられた大韓航空機爆破を実行したのではない。そのことは免罪符にはなりませんが、このナチスや戦前の日本でも繰り返された問題に通底する側面に目が行っていれば、森本氏のような発言にはならないはずです。
*1
まぁそれはいいとして、そういういい悪いではなく価値中立的に「金賢姫という人には環境適応能力がある」と言ったまでのことです。
もっと個人的に言えば、この本を読みながら北朝鮮に行った時のガイド女性のことを思い出しましたね。彼女も平壌外国語大卒だと言っていましたし、きっと本の中で金賢姫が語った生活ぶりと近いものを体験してきたのでしょう。農業体験で順番に歌を歌うくだりで思い出しましたww
最近の動きからすると、あるいは彼女が日本を訪れる日はそう遠くないのかもしれません。今後も要注目です。

*1:5分ごろから