かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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約10年ぶりのアミノ酸摂取

日本社会の歴史〈上〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈上〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈下〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈下〉 (岩波新書)

大体今の日本国があるあたりの日本列島とかその辺で生活を営んできた人々とその社会の歴史について、17世紀くらいまでを中心に論じた本です。中学校の時に「日本の歴史をよみなおす」を読んで以来の網野善彦です。
「日本社会の歴史」というタイトル自体が非常に彼らしいと言うことはできると思うので須賀、彼の議論のフレームワークはおおざっぱに言うと二つあります。第一は国史の解体、とでも呼べるでしょうか。今の私達が「日本史」といって学ぶ時に、それは大体が今の日本国の枠組みからさかのぼっていって旧石器時代にたどりつく、つまり日本国が連綿と一体に続いてきたような感覚の下にあった、ということは多かれ少なかれ言えることでしょう。それは「島国・日本」*1だけではないらしく、たとえばお隣韓国の韓国史の教科名は「国史」ですし、そこにはベネディクト・アンダーソンが言うところの「公定ナショナリズム」の影響を見て取ることができます。この辺は後述します。その上で彼は、旧石器時代の列島各地域の植物の植生など環境要因から語り起こし、地域間の社会的差異のあり方や政治的分立の動きを詳述することで、「一口に日本って言っても全然均質じゃないし、政治的にも万世一系一つの国だなんて昔の人は全然思ってなかったんじゃないの」と投げかけているわけです。そして古くは蝦夷や隼人、時代が下ればアイヌ琉球といった存在や、「倭寇」と呼ばれた人々を筆頭にした、今の国境線をそんなの関係ねぇとばかりに活動していた人々を挙げ、国家の一体性と確定性を前提とする「国史」に土台から揺さぶりをかける。その意味では一つ、力強い議論だと思います。
じゃあもう一つも農本主義の解体、と呼びましょう。彼の専門の中世社会史を中心に、いかに日本列島に商業・宗教・芸能民など、農民以外の人々が多く動きまわっていたかが語られています。「百姓」とは一般的には「農民」と同義に用いられているが、そもそも読んで字の如く百の姓、さまざまな生業に従事する人々のことだ、とする指摘に端的に表れている部分で、特に一つ目とも関連する「海の民」については、興味深く再解釈できる歴史上の出来事は多くありました。
ただ、「網野史観」ならぬ「信長の野望史観」に毒されている*2私としては、戦国時代をそれで解説されてしまうと若干寂しい気持ちもありましたww ただ信長史観って網野史観とは興味深い関係にあって、特に海を挟んでどこの国からどこの国まで攻め込めるかというのはプレーヤーにとってはかなりの関心事*3なので須賀、それがシステムによって違うんですね。私がやり込んだ中では戦国群雄伝*4嵐世記はどこの国とどこの国が「接している(=攻め込める)」かあらかじめ決まっていたので須賀、将星録と革新*5は、途中で邪魔が入らなければどこからどこでも攻められるんです。つまり(織田が素通りさせてくれれば)武田信玄も簡単に上洛できますし、坊津あたりから出た島津軍が堺を急襲することもできる*6わけなんで須賀、現実問題ゲームバランス上それがやりいいかというと(ry*7
…脱線はこれくらいにして、以上二つ、国史農本主義からの解体目指したと言えるこの本なので須賀、最大のキーとなるべきは、惜しくも彼が「展望」という最終章で流してしまった17世紀以降だったように思います。まず後者について、なぜ17世紀の江戸幕府は、中世以降活発化していた列島外部との通商・交流を大きく統制し、多くの非農民たちを建前にせよ農民という枠の中に抑え込むことができたのか、明らかにされていません。そして前者については、明治政府が近代国民国家整備のため「孤立した島国に住む均質な日本国民」「それを統治する天照大神から万世一系天皇家」といった物語を要請した(公定ナショナリズム)ことをこそ述べ、むしろ一番冷静に議論をすべきところなのに、明治以降の記述は読んでいて網野善彦の唾が飛んでくるかと思うくらい激しかった*8ですからねww 彼自身も最終章については、あとがきでIt's none of my businessとほぼ言い切っているので須賀、躍動する中世までの日本社会はなぜ、どのように、どうなってしまったのか。その方面から迫ることも彼の研究にむしろ真正面から資するような気がするんですけどね。それでも楽しく「日本の歴史をよみなおす」ことができました。
それにしても日本の歴史の中でも、神仏への奉仕者・奴隷とされた人々の手で金融などの資本主義が生まれ、発展してきているらしいとなると、ますますウェーバーから逃げられなくなりそうです。

*1:これこそが彼の批判のターゲットなわけで須賀

*2:もちろんそれを信奉しているわけではないですからww

*3:できれば戦力は集中させたいのです

*4:クソゲー

*5:もう封印するんだもん!

*6:実際に鉄砲はこのルートで伝わったとされています

*7:実際この本に触発されて河野家でやってみたんで須賀残念な空気が漂ってきたので途中でやめました

*8:司馬史観」への批判なので生姜、第二次世界大戦まで明治初期の指導者の責任と言えるのかは私は疑問です