- 作者: 小林多喜二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1954/06/30
- メディア: ペーパーバック
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そんな『蟹工船』なんで須賀、読み物として面白かったかと聞かれるとちょっと疑問符です。プロレタリア文学自体が初めてだったのでその意味では楽しめましたが、何だかえげつなさというかわざとらしさのようなものが随所に垣間見える気がするのです。例えば自分たちの労働環境に不満を持ちながらも、集団で抵抗することを知らない蟹工船の労働者達に共産主義を説くのは中国人とロシア人ですし、経営者が蟹工船内に競争原理を導入する部分でも、結局効果は一時的なものにとどまります。これらが設定として妥当かどうか*1、ということも検討する必要がありましょうが、そうであってもなくても、プロレタリア文学としてアジっぽいというか扇動臭いというか、ややえげつない気がします。言い換えれば、共産主義の寓話を読んでいるような感覚を幾度となく覚えました。オチについては触れたくないんですけど、やっぱり落とし方も寓話的と言うべきか教訓話っぽいと言うべきか…ww 先述した主人公の不在も、集団としての労働者を強調する意味があると理解することもできるでしょう。
ということで、正直あまり気に入ったわけではないので須賀、『蟹工船』ブームという問題もあるのでそれについても一言。この『蟹工船』の労働者達と現代のいわゆるワーキングプアを重ね合わせた議論が今盛んで、初めバラバラだった蟹工船の労働者たちが次第に団結を強めていくさまを、「ワーキングプア」という自意識を持つ人たちが希望的観測を込めて自らと重ね合わせている*2…みたいな分析が多いようで須賀、この両者の異同はしっかり踏まえた上で話さねばならない気がしました。ネットで他の方のレビューもいくつか見ましたが、「時代は違えどこの二つの状況には通じる部分がある」とは言ってみるものの、それ以上の議論や分析がないというものが多く見られるように思います。むしろ詳細な議論の中では、しばしばこの二つを同一視することへの留保が強調されている印象です。まぁ要するに「ブームに乗って安易に結び付けようとしてる人もいるんじゃないの?」ってことなんで須賀、ブームに乗って読み始めた私があまり偉そうなことは言えなかったりww
ちなみに『党生活者』の方は、共産党員として非合法活動に従事する主人公らにスポットライトを当てた、完成度の高い作品と言えるでしょう。私はこっちの方が好きです。