かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『戦国の忍び』(平山優)/忍者の正体は中世のアウトローだった?

【目次】

 

戦国の忍び (角川新書)

戦国の忍び (角川新書)

 

「Ninja」ではない忍びの実像

戦国時代の膨大な史料を操りつつ、「忍び」の実像に迫る本です。

「Ninja」は既に海外でも通用する語彙となっていますが、そこから想起されるような超人間的な秘術を用いる存在としてではなく、実際にはどのような人たちで、どんな活動をしていたのかを丹念に追っていきます。

アウトローとしての忍び

彼らはもともと「悪党」などと呼ばれたアウトロー出身者であることが多く、それもあって諜報・索敵・待ち伏せ・城などの破壊工作・暗殺など多様な任務に当たっていました。大名たちは、彼らを召し抱えることによって、他国との戦争を優位に進めようとしたのみならず、「毒をもって毒を制す」ことで自国の治安維持を図ろうともした、と著者は指摘します。その背景にあるのが、中世における夜の世界の特殊性です。昼と夜では、適用される法からして異なっていたそうで、夜に忍びたちが暗躍したのもそうした事情によっていたといいます。

「釣り野伏」「捨てがまり」との関係は

こうして見ると、「忍法○○の術」を使いそうな「Ninja」との違いは明確にあると言えるでしょう。一方で、例えば忍者の活躍ぶりがゲーム展開を大きく左右した「信長の野望将星録」あたりをやり込んでいると、意外と割と、しっくりくるイメージかもしれません。

一つ興味を持ったのは、東北関東で「草」、関東〜東海で「かまり」、西日本中心に「野伏」などと呼ばれたという伏兵と、島津家の戦法として名高い「釣り野伏」や「捨てがまり」との関係です。本書では触れられていませんが、語彙的に見ても、関係があると考えるのが自然でしょう。これらの戦法をどういった人々が考案し、遂行していったのか、気になるところですね。

「麒麟がくる」三十七話/明治天皇も切り取った蘭奢待

【目次】

 

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秀吉の将軍捕縛は下克上の象徴

足利義昭は信長に敗れ、室町幕府は事実上滅亡しました。武家の棟梁たる将軍を、成り上がりの象徴のような木下藤吉郎(秀吉)が捕らえるという演出は印象的でしたね。

今日はかなりのスピードで各勢力の消長が描かれていましたが、武田信玄死去の扱いは上手でしたね。真偽に疑いがあるともされていま須賀、信玄は「死後3年は我が死を秘せ」と遺言したとされており、はっきり死んだと言わなかったのはそのためなのかと想像しました。

明治天皇も切り取った蘭奢待

タイトルにも出ていた蘭奢待について、少しご紹介します。

蘭奢待東大寺正倉院に収められた香木で、それ故かそれぞれの字に「東大寺」の字が含まれています。聖武天皇の時代に中国から輸入されたと言われていま須賀、実際には10世紀ごろに下るとの説もあります。

放送にあったように、足利義満・義教・義政に加えて、後年には明治天皇も切り取ったそうです。『信長公記』によると、柴田勝家丹羽長秀(そう言えばドラマに出てきませんね)と共に、佐久間信盛東大寺に派遣されたと書かれており、その辺の記録にも忠実に描かれていますね。一方、公記は信長の徳を讃えるばかりでそういうニュアンスはないものの、正親町天皇が切り取りに反感を持っていたとの見方はあるそうで、天皇経由で毛利輝元の手に渡ったというのも事実のようです。蜜月に見える天皇と信長の関係がどうなっていくのか、注目したいところです。

『やばいデジタル』(NHKスペシャル取材班)/キーワードは「透明性」

 

4月に放送されたNHKスペシャルを書籍化したものです。

デジタルの世界におけるフェイクとプライバシーの問題は、特にこのコロナ禍の影響もあってよく語られるテーマになっていま須賀、それらを幅広く取材している点に価値があると思います。

印象的だったのは、どちらの問題においても「透明性」がキーワードとなっていたことです。前者については、台湾のオードリー・タンが「政府が透明性を確保し、正確な情報を発信することで、フェイクを防ぐ」と語り、後者の取り組みが進む欧州では、市民一人一人がプライバシーを巡るデジタル技術やプラットフォーマーの規約を理解し、自らのデータの主人となる方向が目指されています。

本書の表現を借りれば、スマホという「魔法の箱」は往々にしてブラックボックスにもなりがちです。そうなってしまわないための努力を事業者、利用者たる市民ともに重ねていくことは最低限必要でしょうし、現政権には望むべくもないかもしれませんが、政府が情報を隠したり、国会の場でウソをついたりしないということは、政治という文脈を超えて、広く社会に対する責任として求められていることでもあるはずです。

「麒麟がくる」三十六話/風間俊介の「弁当の味噌」は放送NG?

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十兵衛の消極的選択

明智光秀が、将軍・足利義昭の前で嗚咽を漏らしながら訣別を告げるシーンが印象的でしたね。

駒と貧民のための施設を作るために集めた金で鉄砲を買おうとしたり、急に剣術に没頭し始めたりと、義昭の変質が強調され、さらに妻子を実質的な人質として京に留め置かれていることが、十兵衛の判断に影響を与えているようにも見えます。ただ、鳥を届けろと信長に命じられた時の表情からも分かるように、十兵衛は信長に対しても違和感を覚えつつあるように見えます。双方の連携維持を望みつつも、最終的にはやや消極的に信長を選んだ、という描き方に見えました。

大敗の三方ケ原に参戦していた佐久間信盛

信長と光秀が鳥をどうのと話している間に、遠江では大変なことが起こっていました。徳川家康が三方ケ原で、西上する武田信玄に大敗を喫したのです。家康をスルーするかのような武田軍の動きに対応しようと浜松城から討って出たところ、しっかり待ち構えられていてボコボコにされてしまったという、当時の家康の若さと信玄の老獪さが好対照をなした合戦でした。

ドラマにもあった通り、信長は家康に援軍を送っていました。今回の放送で十兵衛と話し込んでいた佐久間信盛です。ただ、本格的に家康を助けるまでもなく浜名湖あたりまで逃げ帰ったそうで*1、この際、信長を諌めて死んだ平手政秀の子か孫とされる汎秀が討ち取られています。ちなみにこの時点までは、信玄と信長は形式的には友好関係にあり、信玄がこの汎秀の首を信長に送りつけたことで名実ともに敵対関係に入った、ともされます。

風間俊介の「弁当の味噌」は放送NG?

しかし、佐久間信盛どころでない逃げ方をせざるを得なかったのは総大将の家康でした。有名な話で須賀、敗走中に恐怖のあまり脱糞してしまい、家臣に「これは弁当の味噌だ」と弁解したという話が残っています。また、今後の戒めにするため、逃げ帰った直後の自分の様子を絵に描かせたとの逸話もあります。

流石に、風間俊介が逃げながらお漏らしをするシーンは放送できなかったでしょうが、次回、蘭奢待を切り取るところからしても、信玄の出番はあまりなさそうですね。そう思って、今回は信玄ネタでお話させていただきました。

*1:これは後年、信盛が信長から「リストラ」された際の原因の一つに挙げられます

『パチンコ』(ミンジンリー)/たまたま訪ねていた「舞台」の100年後

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パチンコ 上

パチンコ 上

 
パチンコ 下

パチンコ 下

 

米国で大反響の理由

日本統治時代に釜山近郊の影島に生まれ、訳あって身重のまま大阪へ移り住んだ女性と、その家族たちを巡る物語です。米国で大きな反響を呼んだ小説です。

彼女とその一家は様々な苦難や葛藤を抱え、蜘蛛の糸を辿るような僅かな僥倖と、いくつかの悲しい別れを乗り越えながら、昭和の日本社会を生き抜いていきます。ストーリーとして、「フィクサー」的立ち位置の登場人物がやや目立ちすぎている印象はあるものの、展開に惹きつけられて読み続けることができました。

80年にも及ぶ時間軸の中で、やはり彼らが日本社会で不当に差別されてきた様を基調に描いていくので須賀、最後近くに出てくる「人が何者であるかを決めるのは血だけではない」という一節こそが、一家の苦しみの根本にあり、かつ、その地で生きていく力の源泉でもある、ということなのでしょう。そのメッセージは、「女性の地位や生き方」という問題意識も含めて、移民社会である米国ではより響くものなのだろうと想像しました。

在日コリアンの歴史を網羅

よく構成されているなと思ったのは、フィクションでありながら、植民地時代のコリアン、特にその経過で日本に渡った人々を巡る問題が随所に散りばめられている点です。

既出の差別や生活苦以外でも、官憲による拷問、長崎での被爆、日本企業による賃金未払い、甘言に乗せられて慰安婦にされたのだろう女性、「天皇の臣民」から掌を返したような戦後の外国人扱い、書名にもつながる就職差別、いわゆる指紋押捺、そして北朝鮮への帰国事業…などなど。濃淡はありま須賀、こうしたテーマに網羅的に言及しており、これは著者の意図したところであるのでしょう。米国をはじめとする各地の読者にとって、在日コリアンたちの歴史を知るきっかけになるのだろうと思います。

たまたま訪ねていた「舞台」の100年後

一昨年、主人公の出生地とされた影島を訪ねたことがありました。

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フェリーで南側にも回りましたが、お母さんがその辺の生まれということになっていましたね。

少女時代に重要な出会いのあった釜山の市場も、今ではこんな様子です。

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100年前の風景がどんなだったか、想像しながら読むのもとても楽しかったです。

麒麟がくる三十五話/細川藤孝の「身を助け」た三条西実澄からの古今伝授

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十兵衛、迫る決断の時

暴拳の虎将軍・足利義昭が信長への反感を露わにし、明智光秀が将軍の間近で暗殺されそうになる*1など、幕府体制の亀裂はもはや覆い隠せないほどに広がってしまいました。両者に属してきた十兵衛も、間もなく辛い決断を迫られることになるのでしょう。

今回は、初登場の2人をご紹介しましょう。

秀吉の母のマシンガントーク

まずは、いきなり現れて猛烈なスピードでしゃべり倒していった木下藤吉郎の母・なか。大政所と言った方が通りが良いかもしれません。

私自身、最初に見た大河ドラマタコ坊主竹中直人主演の「秀吉」でした。そこでは亡くなった市原悦子さんが大政所役で、その雰囲気で大政所の人物像を捉えてしまっていたところがありましたので、正直、今日はかなり驚きました(笑)

大政所は後に、秀吉の意向で人質として徳川家康のもとに赴くことになります。本作では触れられないはずで須賀、この大政所が風間俊介演じる家康のところに行ったらどんな状況になるのか、想像しただけで笑えてきてしまいました。

細川藤孝の「身を助け」た三条西実澄からの古今伝授

もう一人は、三条西実澄です。三条西家は和歌に優れた家柄で、藤原定家以来の「古今伝授」を一子相伝で受け継ぐようになっていました。これはもしかしたらドラマに出てくるかもしれませんが、実澄はしかし、幼い我が子ではなく弟子だった細川藤孝にそれを伝えます。その時付けられた条件が「自分の息子にも相伝しないこと」だったそうです。

藤孝が古今伝授を受けたことは、文字通り彼の命を救うことになります。関ヶ原の戦いの前哨戦で、藤孝の城は石田三成方に包囲されて危機に陥ったので須賀、ここで藤孝が戦死して古今伝授が絶えることを恐れた朝廷が、勅命により彼の身柄を保護した、という有名なエピソードが残っています。

肥後細川藩、そして戦後日本政治に名を残した細川護煕元首相の祖と言える人物は、「芸は身を助ける」を地で行っていたわけです。

本題に戻ると、光秀と藤孝の仲から考えると、光秀と実澄の関係も遠くないものであったでしょう。伊呂波太夫・実澄を通じて天皇ー光秀ルートが出来ました。結末への影響もありそうです。

そう言えば実澄演じる石橋蓮司と言えば、「西郷どん」での川口雪篷役が印象的でした。娘は「この恋あたためますか」で重い感じのキャラを…話が逸れてきたので、この辺にしておきましょう。

*1:この一件の下敷きになるような史実はちょっと知りませんです

麒麟がくる三十四話/信玄キターーー!

 

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大和の抗争が詳述されていましたが、ようやく「信長包囲網」の主力たる武田信玄が登場しました。金ヶ崎も含め、包囲網と呼ばないのには意図があるのでしょう。

個人的には、「風林火山」で武田晴信を演じた詫びろ半沢市川猿之助が印象的でした。

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彼も父を追放し、失敗に失敗を重ねながら大勢力を築いた大大名で須賀、その辺りの機微は描かれないでしょうか。確かに信玄は、甲斐の身延山比叡山移転を計画していたという話もあるそうですね。

もちろん覚恕に頼まれたからではありませんが、この後信玄は上洛を目指します。その過程で誰とどんな戦になるか、そのくらいは描写されるのではと期待しています。