かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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「欧米か!」とは思ったものの興味深い研究手法/『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(津川友介)

 

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

 

複数の研究を取りまとめて、より高い見地から分析する「メタアナリシス」という手法を用いて、現時点で最も病気になりにくいとされる食事について紹介する本です。

メタアナリシスは、個別の食材に含まれる成分が体内でどう作用するかといったミクロな視点でなく、そうした研究の蓄積というマクロからのアプローチであるため、それにおける食材の分類もシンプルなものになっています。具体的に言うと、▽健康に良いことが多くの研究で報告されている(確度が高い)▽健康に良いことが少数の研究で報告されている(確度が低い)▽良いとも悪いとも報告がない▽健康に悪いことが少数の研究で報告されている▽健康に悪いことが多くの研究で報告されているーとなります。

世の中にはたくさんの食材と、遺伝や行動のパターンを持つ人間のグループと、研究の制約条件があります。それらに関する研究が多くある中で、メタアナリシスという手法を用いて全体の傾向を分析するのには一定の合理性があると感じました。

一方で、この手法は「研究者の多くが何について研究するか」についてのバイアスは免れないと思われます。研究者が興味を持たない&そもそも知らない食材については研究がなされず、どちらかの意味で健康に影響が大きい食材も「良いとも悪いとも報告がない」ものに分類される可能性があるのではないでしょうか。

この傾向はこの本における結論にも表れていて、良いものはオリーブオイルや魚などを用いた地中海食で、悪いものはパスタや白米などの「白い炭水化物」や豚肉・牛肉(特に加工肉)であるーという分析は、それ自体が間違っているとは感じませんでしたが、欧米風のライフスタイルを送る人の関心を大いに繁栄していると言えそうです*1ムスリムの研究者は、恐らく豚肉の発がん性については研究しないのではないでしょうか。

そうした研究手法に基づく制約を踏まえれば、「良いとも悪いとも報告がない」ものやエビデンスの弱いものについて過信できないことは留意すべきで生姜、報告が多く集まっているものについては気をつけた方が良さそうです。

特に子供の食習慣については責任ある立場ですので、なんとなく気をつけてあげたいものです。

 

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*1:タカアンドトシがいたらツッコミを受けるでしょう

『軍事の日本史』(本郷和人)

 

軍事や戦場のリアルな有様や要請から、中世を中心とした日本史を読み解く本です。

著者によると、第二次世界大戦に敗れてからの日本史学は、戦争や軍事に関する研究を条件反射的に忌避する傾向があったといいます。しかし、中世以降文官に対する武官の優位が続いてきた日本では特に、権力を握るのに必要なのは軍事であったわけで、戦うということがどんなことなのかを科学的に考えていく必要がある、と指摘しています。具体的には、戦術・戦略・兵站・兵力・装備・大義名分を分析していく必要があるとされます。

…と言うと小難しい議論が続く本なのかと思われるかもしれませんが、さにあらず。源平合戦から承久の乱宝治合戦南北朝の動乱川中島の戦い、秀吉の中国大返し関ヶ原合戦から鳥羽・伏見の戦い、太平洋戦争まで、豊富な事例をもとに、専門的な議論も噛み砕いて、わかりやすく話を展開しています。

読んで楽しみながら、日本史における軍事のリアルを考えられる本かなと感じました。

 

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消えゆくこたつ&もうネットリテラシー?/長男言行録(4歳7・8・9カ月)

年度も改まりましたので、最近サボっていた長男の近況報告をさせてください。まずは正月明けにしていたこんな話から。

長男「犬は喜び庭駆け回り 猫はこたつでいなくなる♪」

私「いなくなるってwwwちなみにさあ、あなた『こたつ』ってなんだか知ってる?」

長男「みかんやお餅を置くところ?」

私「確かにおいてあることもあるけど…見たことない?」

長男「うん」

ちょっと衝撃的ではありましたが、確かにそうかもしれません。私の育った家の居間には、もちろんこたつが鎮座していましたが、今の家にはありません。祖父母宅のどこかにはあるのかもしれませんが、ここ数年、どちらの実家でもお目にかかったことがありません。保育園にもないでしょう。

それでみかんやお餅が置いてある絵だけを見せられたら、低いテーブルだと認識するのもやむを得ないかもしれません。我が家に関して言えば、生活の洋風化というよりは、こたつで食事をしない限り(=食卓の代替とならない限り)置く場所がないんですよね…。こうやって、親世代馴染みのものが認識されなくなっていくんだろうなとしみじみ感じました。

余談で須賀、私にとっては「黒千代香」がそんなイメージです。里の酒飲みの風習と関連してよく知られる道具なので須賀、健在の祖父の家でもポットのお湯で割って飲んでいたので、使っている様子を見たことがありません。あの宴会部屋にはまだこたつがあるはずですけれども。

 

次は先週ぐらいに、細君から聞いた話。最近細君にそそのかされてたまに書いている日記にまつわるやりとりです。

遠足の日に細君にお弁当をこしらえてもらったのが嬉しかったようで、その日は「おべんとうがおいしかった」という趣旨を書いていました。細君がそれを見つけて…

細君「その日記、FBに載せていい?」

長男「日記だけはやめてほしい。恥ずかしいから」

長男「あのさあ、こんどから、インスタグラムに写真を載せる時は、なになにの写真を載せていい?って聞いて、いいって言ったら載せていいけど、だめっていったら載せないでね」

「日記を読まれるのは恥ずかしい」というのはもっと大きくなればよくある話かもしれませんが、4歳児がそんな言い分をどこから仕入れてきたのか、本当に恥ずかしさを感じているのなら、なぜ机の上に開きっぱなしにしておくのか(笑)、ちょっと不思議な感じがしました。「親に見られること」と「ネットに投稿されること」の違いを理解しているというなら、バイトテロで炎上している皆さんに教えてあげたいくらい立派な心がけだとは思いますけど、その辺はじっくり聞いてみないとわかりませんね。

 

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親子の2019年2月読書「月間賞」

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衝撃的ながらも論理的にはあり得そうな未来を、警句的に論じた本です。10年20年後ですら、きっと今からは想像もつかない状況になっているのではないかと感じさせられます。

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『眠れなくなる宇宙のはなし』を次点に。評価の高い本だそうで須賀、天文学の歴史と基礎的知識を実に読みやすく、きれいにまとめている印象です。物書きとしての手法も鮮やかでした。

 

おしりたんてい ふめつの せっとうだん (おしりたんていファイル)
 

長男はこれに(本人の意向は聞いてないけど、間違いないと思います)。最近は絵本も一人でスラスラ読めるようになり、声が聞こえないので何をしているんだろうと家の中を探したら布団に寝転がってトーマスあたりを熟読している…なんてことが増えました。だったらもう少し字数の多いものも読めるのではないかということで、絵本というよりは「児童書」の括りになるのでしょうか、お薦めして*1買ってみました。

当初、あんまり下品でもイヤかなという気持ちは正直ありましたがその辺は心配したほどでもなく(上品だとも思いませんがw)、絵探しやちょっとした推理といった要素も盛り込まれており、楽しそうに読んでいます。やはりこれまで読んでいた絵本には出てこないような語彙も多いで須賀、楽しく読んでくれているなら、その範囲で新たな語彙にも親しんでいってくれると思っています。

 

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*1:「おしりたんてい」シリーズ自体は、よく会うはとこが読んでいたのが影響したようです

【ご報告】来月からは新聞社のビジネス部門へ

昨年4月からネット系のメディアに出向しておりましたが、来月より、もともと所属していた新聞社に復帰することになりました。

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 4月からはニュースの編集部門すら離れ、デジタルでのマネタイズなどの業務に携わる予定です(初めて兼務の職がついたおかげもあり、自分でも覚えるのが大変なくらい長い肩書になります)。出向先ではメインがニュース編集、それとともに記事体広告制作の仕事も学んでいたので、後者を生かしていくようなことになりそうです。

その意味で、というか辞令が出たので慌てて買って読んだのがこの本。

改訂2版 ネット広告ハンドブック

改訂2版 ネット広告ハンドブック

 

どちらかというとネット広告を出す側(広告主)目線で書かれた本で須賀、よく整理されており勉強になりました。逆に言うと、この本の話になんとかついてこられたのは、1年間で色々と教えてもらったからなんだろうなと感じました。

 

1年間の出向で学んだことや、見聞きしたものへの感慨は色々とありま須賀、さすがにここでは詳述しません。ただ一つだけ言えるのは、新聞社は、紙ではなくスマホで、さらにはもっと他の何かでニュースが摂取されていく環境に適応しつつも、そもそも持っている最大の強みである取材力・コンテンツ制作力はしっかり保ち、磨いていかねばならないということです。ちゃんと取材して一定以上信頼してもらえるコンテンツを作ることは、今後の新聞社などの報道機関、いや民主主義社会が生存していくための十分条件ではないが、必要条件ではあると思っています。

あまり想像しなかった巡り合わせではありま須賀、新聞社が生存の十分条件を見出せるよう、あくまでも巨視的な目線を大事に新しい仕事に挑んでみたいと思っています。

 

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核拡散防止、求められる対応の一貫性/『核拡散防止の比較政治』(北野充)

 

核拡散防止の比較政治:核保有に至った国、断念した国

核拡散防止の比較政治:核保有に至った国、断念した国

 

戦後の国際政治を見ていると、核開発を検討・模索した国家の中で、ある国は実際に核保有に至り、別の国はそれを放棄したり、断念したりしているのが見受けられます。その違いはどこにあるのか。核拡散が焦点化した中国以降の例についてパターンごとに分析した本です。

具体的には、核保有に至った中国・イスラエル・インド・パキスタン、これを断念した(させられた)南アフリカイラクリビアウクライナ、今まさに問題化している北朝鮮・イランが扱われています。最初にかなり精緻なモデルが提示され、その上で各事例をそこに当てはめていく方式で議論が進められていきます。そのモデルをここでご紹介してもいいので須賀、トランプ大統領就任前に出版されており、その後の米朝会談などの展開はフォローされていませんので、ここで私がこのモデルを応用してその後の推移を見ていきたいと思います。

まず、核開発を進める要因には1安全保障を図る2国際的威信3国内政治上の要請、抑制する要因には4規範5経済的不利益6外交的不利益7却って安全保障上不利益8財政負担があり、これらの比較衡量の枠組みとして9国家の基本政策が内向きか外向きか10指導者の性向11体制が民主的か専制的か、があるといいます。また、核保有を大っぴらに宣言するか隠すかは、概ねこの推進要因と抑制要因の兼ね合いによるとしています。

そして、これを阻止するための取り組みを、NPTなどの不拡散レジームの対応、先述の要因に働きかける外交的手段、軍事的手段に分類しています。

トランプー金正恩時代の北朝鮮核問題で特徴的なのは、あくまでも米朝首脳会談の実施に見られるような「米朝の歩み寄り姿勢」にあると考えます(いわゆる「無慈悲チャーハン」的なやりとりは程度の差こそあれ、現象的にはこれまでも行われてきた)。そうすると、その「変化」を生み出したのはどの要因の変化でしょうか?

この枠組みでまず挙がるのは、5の経済です。制裁が一定以上の効果を上げているという分析は多くなっていますし、経済構造としても、国内で市場経済的な活動が広がり、中国などとの(主に非公式な)経済交流も重みを増しているようです。このように経済の対外依存性が増すことは、一般に制裁への脆弱性を意味しますし、9が外向きのベクトルに傾いていくこととも関係あるでしょう。8の財政負担ももちろん関連しましょう。

一方で北朝鮮近海に空母が増派されたことなどから、「何をやるか予想しづらい」トランプ大統領下で、これまで通り瀬戸際政策を展開することの危険性を感じた(7)可能性はあるでしょうし、米朝会談前後の北朝鮮報道を直接間接に見ていると、2や3の威信を「米国大統領と直接交渉できる立場にあること」によって追求しているようにも思え、そうであればこの点における核の誘因は幾分和らいでいるかもしれません。

米国側から見ても、ハノイでの米朝会談は不首尾に終わったものの、トランプ大統領北朝鮮の経済的繁栄の可能性に度々言及していたのは、5の認識を踏まえたものでしょう。ただやはり、この先も最大の焦点は1の安全保障であり、南北関係が比較的安定していることを踏まえても、引き続き米朝の交渉が問題全体のカギを握るはずです。

そうした場合、本書のモデルの射程外で気になってくるのは、やはり米国など核拡散防止に取り組む側の事情です。ハノイでの首脳会談の背景に、米国大統領のスキャンダル捜査が絡んでいるとの観測はあちこちでなされていましたし、もう一つの「進行中案件」イランでは、この本の中で画期的と評価された合意をその米国大統領がほぼぶち壊しつつあります。以下に引用する本書の一番最後の段落が、期せずして一番身に沁みる国際情勢になったしまったことを思わざるを得ません。

本書で見てきた各国の事例が明らかにしているように、核開発を進める側は、強い決意を持って長い時間をかけて少しずつこれを進めていくのが常である。したがって、これを防ごうとする側にも、強い決意に基づき長期にわたって緩みなく核拡散防止のための措置を取っていくことが求められる。核拡散防止の観点からの政策の一貫性*1はとれているのか… 

 

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*1:関連する事例として本書では▽ソ連のアフガン侵攻後に米国が核開発を進めるパキスタンを支援したこと▽ウクライナ旧ソ連核兵器を手放す際、ロシアなどが同国の国境の安全を保証しておきながらクリミア併合が行われたこと▽核を放棄したリビアカダフィ政権が結果としてアラブの春で倒れたこと、などが挙げられています

日本語の時間的・空間的多様性/『日本語全史』(沖森卓也)、『方言の日本地図』(真田信治)

 

日本語全史 (ちくま新書)

日本語全史 (ちくま新書)

 
方言の日本地図-ことばの旅 (講談社+α新書)

方言の日本地図-ことばの旅 (講談社+α新書)

 

お里の方言がキツイということもあって、以前から割と方言については興味があるつもりだったので須賀、

canarykanariiya.hatenadiary.jp

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歴史的な経緯あっての地域差でもありますので、時間と空間の広がりから日本語について学んでみようと思い、2冊読んでみました。

『日本語全史』は、上代特殊仮名遣からら抜き言葉まで、1500年以上の日本語の歴史を文字表記・音韻・語彙・文法の面から詳述しています。ネットで「なぜこんな重厚な内容の本を新書で出したのか」と言われているのも見ましたが、本当にそんな感じの、構成も内容もしっかりした本です。

言うまでもなく、奈良時代平安時代の日本語は違っていますし、院政期以降もまたどんどん変化しながら今に至ります。まさに「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず」なわけで須賀、ちょうど院政期から文語と口語が乖離し始め、変化を続ける口語とは対照的に、文語は平安朝時代のものが意識され続けます。明示的にそうとは書いてありませんでしたが、私たちが学校の「古文」として「源氏物語」や「枕草子」を中心に学ぶのは、恐らくそのことによるのでしょう。

『方言の日本地図』は、方言の分布図を多用しながら、周圏的伝播や世代、かつての藩や行政区分・学区など、方言分布の様々な要因を具体的事例から説明しています。また、勢いがあるように思える大阪弁すら「標準語化」している*1ことを挙げ、収集が進まないまま各地の方言が廃れていくことに危機感を表明しています。

この2冊、(見解が一致すると言う意味ではなく)繋がる議論もあって興味深かったです。月並みではありま須賀、一口に「日本語」と言っても、時間的にも空間的にも多様な広がりを持つものなのだなと実感しました。

 

同様のテーマでワクワクしながら読み進めたのは

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だったかなあと思い出しま須賀、この著者の新刊はなかなか買う勇気が出ない…www

 

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*1:東京の言葉と一対一に対応する語や文法構造が増え、「大阪弁にしかない概念を表す語」が用いられなくなってきている